パーキンソン病の治療 その1

21世紀にはいってなお、パーキンソン病に対する根本的な治療法はありません。病気の進行を遅らせる治療法すら確立していないというのが現状でもあります。日常生活動作を向上させたりすることはできるようになりましたが、運動症状や精神症状、自律神経症状などの非運動症状にたいする対症療法としての治療がほとんどです。しかし、神経変性の機序が明らかになるにつれて、変性すなわち症状の進行を遅らせるための治療法(神経保護薬による治療法)が試みられるようになってきました。また変性した神経を再生させる遺伝子治療や幹細胞移植などの根本治療も現実的なものとして視野に入ってきています。

日本では、このパーキンソン病は1978(昭和53)年10月1日に特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されたので、公費受給が可能となっていますが、ホーン・ヤール分類の3度以上が認定の目安となっているため、パーキンソン病初期の治療は健康保険の範囲内で自己負担しなくてはなりません。

ホール・ヤール分類
1度 一側性パーキンソニズム
2度 両側性パーキンソニズム
3度 軽度~中等度のパーキンソニズム。姿勢反射障害あり。日常生活に介助不要
4度 高度障害を示すが、歩行は介助なしにどうにか可能
5度 介助なしにはベッド又は車椅子生活
生物学での研究が基盤となるバイオケミカル産業
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ドパミン補充療法

レボドパ (レボドパは長期服用によって運動合併症を引き起こします)

ドパミンの前駆物質であるレボドパ (L-ドパ) を投与します。ドパミンを直接投与しないのは、ドパミンが血液脳関門を通過できないためです。ドパミン脱炭酸酵素阻害薬であるカルビドパ(商品名メネシット、ネオドパストンなど)あるいはベンセラジド(商品名イーシー・ドパール、ネオドパゾール、マドパー)との合剤を用いることが多いです。1960年代に臨床応用されて以来、薬物治療のゴールデンスタンダードでもあり、主に運動症状 (3主徴) に対し極めて有効に働きます。

振戦の改善はその他の抗パーキンソン病薬に比べるとマイルドです。十分な量の投与で、運動機能が長期間良好に維持され、生活の質の改善や生存期間の延長につながります。長期にわたる服用によって、オン・オフ現象(突然薬の効果がきれて、体が動かなくなる)やウェアリング・オフ現象(内服直後や時間がたった時に効果が突然切れる)、ジスキネジアといった副作用(運動合併症)が現れます。この運動合併症は、レボドパに比べてドパミンアゴニストで治療を開始したほうが起こりにくいことが示されている。このため、初期治療としてはドパミン受容体作動薬から投与することで、少しでもレボドパの内服開始時期を遅らせる治療法が一般に推奨されていますが、実際にどちらから開始するかについては年齢・生活・合併症の有無など患者個々人の状況に応じて判断することが求められます。レボドパやドパミンアゴニストを投与すると悪心・嘔吐の副作用が出ることが多いのですが、これに対する治療としての制吐剤には、パーキンソニズムを悪化させるものが多いです。メトクロプラミドはこの用途には用いず、ドンペリドンを用いるのが一般的です。

ドパミン受容体作動薬

ドパミンアゴニストとも呼ばれています。麦角系としてカベルゴリン(商品名カバサール)、ペルゴリド(商品名ペルマックス)、ブロモクリプチン(商品名パーロデルなど)、非麦角系としてプラミペキソール(商品名ビ・シフロール)、ロピニロール(商品名レキップ)、タリペキソール(商品名ドミン)などがあります。レボドパ製剤と比較してウェアリングオフやジスキネジアを起こしにくいことから、認知症を伴わない70歳未満の患者については、レボドパではなくこちらを第一選択とすることが推奨されています。幻覚(幻視が主に出る)などの精神症状が強く出やすいため、認知障害のある患者の場合は、投与を避けます。また麦角系ドパミンアゴニストでは重篤な副作用(心臓弁膜症や間質性肺炎など)を起こすことがわかったため、新たに投与を開始する場合はまず非麦角系薬を選択し、治療効果が不充分であったり忍容性に問題があるときのみ麦角系薬を使用することになっています。(その場合、投与開始前および開始後定期的に心臓超音波検査をはじめとするフォローが必要です)ただし、非麦角系薬にも突発的睡眠などの重大な副作用があるため、注意が必要であることには変わりがありません。。また、これらの薬剤を内服している人が急に内服を中止すると悪性症候群などの重大な副作用を引き起こす危険があるので、必ず医師に相談する必要があります。アポモルヒネはドパミン受容体のうちD1およびD2受容体の作動薬で、即効性があります。すでに1950年代からパーキンソン病への適応が検討されていましたが]、初回通過効果を受けやすいため経口薬としては使えませんでした。その後皮下注射薬が開発されて即効性と半減期の短さから、進行期のオフ症状に対するレスキュー役として使われるようになりました (日本では2012年3月承認)。さらに持続的に皮下注射を行っている国もあります。

最先端の治療薬?!「抗体医薬品」!

    MAO-B阻害薬

    選択的不可逆的モノアミン酸化酵素B (MAO-B) 阻害薬です。中枢内に多く存在し、ドパミンの代謝経路として働くMAO-Bを選択的に阻害することで、ドパミン濃度を高める働きがあります。セレギリン(商品名エフピー)が現在日本で使用されている唯一のMAO-B阻害薬です。セレギリンは治療量内ではMAO-Bに対して選択的に働きますが、高用量になるとMAO-AおよびMAO-Bに対して非選択的に阻害してしまうので注意が必要です。また、進行期パーキンソン病の運動合併症であるジスキネジアの発現を増強するため、ジスキネジアが出現した場合には投与を中止します。セレギリンは神経保護作用もあるといわれていますが、その効果については報告によって違いが見られるため、議論が分かれているのが現状です。COMT阻害薬と異なり、MAO-B阻害薬単独でも効果はあるといわれていますが、日本ではL-ドーパとの併用のみが認められています。セレギリンは代謝されアンフェタミン、メタンフェタミンが産出され、覚醒方向に働き不安、不眠の副作用が生じることがあり夕の内服は避けられる傾向があります。ウェアリングオフやすくみ足といった他の抗パーキンソン病薬では効果が低い症状に有効です。しかしピークドーズジスキネジアは出現しやすくなります。そのため早期パーキンソン病ではレボドパの開始と同時期に開始し、病気の進行を遅らせたり後期パーキンソン病で幻覚や認知症のない例でウェアリングオフが認められジスキネジアが認められない例で用いられる場合が多いです。メペリジン、三環系抗うつ薬、SSRIとは急性の中毒性相互作用(セロトニン症候群)が知られています。また血圧を下げる作用があるため起立性低血圧が認められる場合は増悪する可能性があります。またMIBGシンチグラフィーの検査に影響を与えることが知られています。ラサギリン (ラサジリンとも。日本未承認のため定訳がありません) はセレギリン同様に選択的MAO-B阻害薬ですが、セレギリンと異なり代謝されてアミノインダンとなります。セレギリンの代謝産物であるアンフェタミン・メタンフェタミンが神経毒性を持つのに対して、アミノインダンは神経保護作用を持つ可能性があります。早期パーキンソン病に対して単独投与での運動症状改善が示されています。また進行期のオフ時間を減少させることも明らかになりました。ヨーロッパ (2005年) やアメリカ (2006年) では既に発売されていますが、日本では未承認で、2012年現在申請もされていません。