モノクローナル抗体

抗体医薬品は、モノクローナル抗体を主成分としています。手法は遺伝子工学の手法で作成します。では主成分の「モノクロナール抗体」とはなんでしょうか?!

単一の抗体産生細胞に由来するクローンから得られた抗体(免疫グロブリン)分子のことです。通常の抗体(ポリクローナル抗体)は抗原で免疫した動物の血清から調製するために、いろいろな抗体分子種の混合物となりますが、モノクローナル抗体では免疫グロブリン分子種自体が均一です。抗原は複数のエピトープ(抗原決定基)を持つことが多いため、ポリクローナル抗体は各々のエピトープに対する抗体の混合物となるため、厳密には特異性が互いに異なる抗体分子が含まれています。これに対してモノクローナル抗体では、一つのエピトープに対する単一の分子種となるため、抗原特異性が全く同一の抗体となります。

通常、抗体産生細胞を骨髄腫細胞と細胞融合させることで自律増殖能を持ったハイブリドーマ (hybridoma) を作成し、目的の特異性をもった抗体を産生しているクローンのみを選別(スクリーニング)します。この細胞を培養し、分泌する抗体を精製して用いることになります。モノクローナル抗体を作製する方法を1975年に発明したジョルジュ・J・F・ケーラーとセーサル・ミルスタインは1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

最近では、動物を使用しないファージディスプレイでのモノクローナル抗体作製が行われています。ハイブリドーマを使用する作製方法とは違い、ファージディスプレイでの作製では、完全なるクローンでの追加抗体作製が可能で、安定的に研究を行うことができます。

ジョルジュ・J・F・ケーラー

ドイツの生物学者で、1946年4月17日ドイツのミュンヘンで生まれました。免疫制御機構に関する理論の確立とモノクローナル抗体の作成法の開発によって、ニールス・イェルネ及びセーサル・ミルスタインと共に1984年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。受賞した年、フライブルク大学の教授に就任し、マックス・プランク免疫生物学研究所の研究員となりました。

ノーベル生理学・医学賞の受賞理由は、免役制御機構に関する理論の確立とモノクロナール抗体の作成法の開発です。

生物学での研究が基盤となるバイオケミカル産業

    セーサル・ミルスタイン

    1927年10月8日、アルゼンチン生まれの生化学者ですが、人生の大半をイギリスで過ごしました。

    ブエノスアイレス大学を卒業後、生化学教授ストッパーニの元でアルデヒド脱水素酵素の研究を行い博士号を取得しました。

    ミルスタインの主だった研究は、抗体の構造と抗体の多様性が生まれる機構の解明に費やされました。1975年に彼と当時ポスドクだったG・J・F・ケーラーはモノクローナル抗体の作成に必要なハイブリドーマの技術を確立しました。この研究によって1984年のノーベル賞受賞につながりました。。この技術のおかげで、科学や医療の目的で抗体が大量に作れるようになりました。

    モノクローナル抗体の臨床への応用

    1970年代に発明されたモノクローナル抗体は臨床に革命的な変化を起こす!といわれていましたが、その後ほぼ20年間、臨床試験は上手くいきませんでした。その原因は主に、マウスの抗体はヒトに抗原認識されることが原因でした。しかし1990年代になって、CHO細胞内に、マウスでなくヒトの免疫グロブリン遺伝子を発現するプラスミドを直接形質転換する方法が開発されて以降、この問題は克服されました。この方法はさらに進化することになり、現在ではハイブリドーマを使用せずに、ファージディスプレイにより1兆個の分子からなる莫大なクローンライブラリーから最適抗体がスクリーニングされ、その遺伝子をCHO細胞で大量生産する方法が用いられています。もしくは、ヒトの抗体を生産するトランスジェニックマウスを使い、直接ヒト抗体を得る方法が用いられています。これらの方法は、前臨床段階までの開発費がわずか約2億円で済むといわれているため、従来の古典的化学薬品にかかる20億円と比較して非常に効率がよいといえるでしょう。ただし細胞培養を必要とするため、最終製品の製造費用は化学合成による化学薬品と比べると、非常に高いです。

    モノクローナル抗体はタンパク質薬品であるため、いわゆる化学薬品と違い経口投与ができません(普通週一回の注射)、製造費用が非常に高いという点と、細胞内部に侵入できないなどの欠点を併せ持ってます。しかしいったん標的分子に結合すると、患者自身の免疫機構が働いて標的分子を含むがん細胞を高率で破壊できるなどの利点をもっています。また、免疫グロブリン自体はヒトの体内に存在する分子なので、それ自身による副作用はあまりないと予想しやすいといえるでしょう。

    原理的にはポリクローナル抗体も臨床に使用可能ではありますが、人間の患者への薬品として使用するためには、薬品内の分子が化学的に厳密に定義され、さらにそれらを極めて高純度でかつ安定的に大量生産する必要があるので、現実にはほぼ不可能であるといわれています。 ヒト血漿由来(血液製剤)の免疫グロブリン製剤は一種のポリクローナル抗体であり、様々な難病に対して使用され有効性を示しています。しかし、これら血液由来の免疫グロブリン製剤が組換え抗体医薬品に容易に置き換えることができないのは、上記の品質管理の困難さから、簡単にはいかない理由になっています。

    最先端の治療薬?!「抗体医薬品」!

      モノクロナール抗体が、アメリカバイオテクノロジー産業における役割とは

      1990年代の後半から、モノクローナル抗体は、バイオテクノロジー産業に革命をもたらしました。そして、現在のバイオテクノロジー薬品のほぼ3分の1はモノクローナル抗体です。1997年にGENENTECH社のRituxan抗体が抗CD20抗体として非ホジキンリンパ腫 (NHL) に対して認可されたのをはじめ、Herceptin, Avastinなどのシグナルトランスダクションやアンジオジェネシスを標的とする新型をふくめ、現在15以上のモノクローナル抗体が、がん治療などに使われています。そして、少なくとも100を超えるモノクローナル抗体がPhaseI・II・IIIの臨床試験で開発されています。特にがん治療において使われています。そしてモノクローナル抗体の売上は200億ドルを超えると予想されています。また、次世代モノクローナル抗体で呼ばれる、放射性同位体を結合したものや、抗体可変部位のみの極小型、などの新型が開発されています。

      成功した抗体の売り上げは莫大で、2004年は抗TNF-α抗体Remicade(Centocor社)がトップで21億ドル、Rituxanが17億ドルとブロックバスター製品となっています。特にGENENTECH社が開発した3つのモノクローナル抗体製品(Rituxan, Herceptin, Avastin)はその全てがFDAから認可されています。そして認可された、その全てがヒット製品になっています。一般に4~6年に及ぶ臨床試験で製品が生き残る確率はわずか20%であることから考えてみると、これはアメリカ製薬会社史上で稀にみる成功であるといえるでしょう。

      モノクローナル抗体が最も成功した要因にひとつには、抗体はもともと生体防御タンパク質として進化した分子なので、他のタンパク質と比べ極めて安定性の高く半減期が長いこと、標的と結合した後、身体の免疫機構を利用するため、増幅効果を期待できることなどが成功の要因です。これとくらべ、同じく1990年代から開発中のアンチセンス (antisense) 薬品は、標的細胞内の核内に輸送すること自体が至難の業であることから、GENTA社やISIS社が莫大な開発費を投じた製品は、ほぼ全て失敗に終わっています。